< 使徒の働き 28 >

1 第十項 パウロマルタに漂流しロマに至る 我等既に迯れて後、此島のマルタと呼ばるることを知りしが、夷等一方ならぬ親切を示し、 2 雨降りて寒ければとて、火を焚きて我等一同を保養せしめたり。 3 パウロ若干の柴を集めて火に加べしに、火熱の為に蝮出でて其手に噬付きしかば、 4 夷等虫のパウロの手に噬付けるを見て、此人定めて殺人者なるべし、海よりは迯れたるも、天之に活くる事を許さず、と語合ひけるに、 5 パウロ虫を火の中に振落して、聊も害を受けざりき。 6 人々は、彼必ず脹出して忽ちに倒死するならんと思へるに、待つ事久しくして聊も害の及ばざるを見るや、翻りて、是神なりと謂ひ居たり。 7 然て此處にプブリオと呼ばるる島司の所有地ありしが、彼我等を接待して、三日の間懇切に饗應せり。 8 然るにプブリオの父、熱病と赤痢とを患ひて臥し居ければ、パウロ其許に至り、祈り且按手して之を醫したり。 9 斯りし程に島に於て病める人々悉く來りて醫されつつありしが、 10 又大いに我等を尊びて、船に乗るに臨み、必要なる品々を我等に贈れり。 11 三月の後我等は、此島に冬籠したりし、ジョストリの印あるアレキサンドリアの船にて出帆し、 12 シラクサに至りて滞留する事三日、 13 此處より岸に沿ひてレジオに至りしに、一日を経て南風吹きしかば、二日目にプテリオに至り、 14 此處にて兄弟等に出會ひ、願によりて彼等の中に留る事七日にして、遂にロマに至れり。 15 ロマの兄弟等之を聞きて、アッピイフォロム及び三宿と云へる處まで我等を出迎へしが、パウロ彼等を見て神に感謝し、且力を得たり。 16 斯て我等ロマに至りしに、[百夫長囚徒を近衛隊長に付したれど、]パウロは己が宿に一人の守衛兵と共に留る事を許されたり。 17 三日の後パウロユデア人の重立ちたる者を呼集めしが、彼等來りしかば、パウロ之に謂ひけるは、兄弟たる人々よ、我曾て我國民又は先祖の慣習に反する事を為さざりしを、エルザレムより、囚人としてロマ人の手に付されしが、 18 彼等訊問の上、死罪に當る事なきにより、我を免さんとしたりしに、 19 ユデア人の之を拒みたる為に、我已むを得ずしてセザルに上告せり。然れども我國民に就きて訴ふる所あるに非ざれば、 20 我は汝等に遇ひて語らん事を請へり、蓋イスラエルの希望の為にこそ、我は此鎖に縛られたるなれ、と。 21 彼等パウロに謂ひけるは、我等は汝に就きてユデアより書簡を受けたるにも非ず、又兄弟の中に來りて汝が惡しき事を吹聴し、或は語りたる者あるに非ず、 22 然れど、希はくは汝の思へる所を聞かん、其は此宗派が到る處に於て逆らはるる事を知ればなり、と。 23 斯て彼等日を期して、パウロの宿に群がり來りしかば、彼朝より晩に至るまで説教して、神の國を證明し、又モイゼの律法及び預言者の書に基きて、イエズスの事を勧め居たりき。 24 斯て謂はるる事を信ずる人もあり、信ぜざる人もありて、 25 相一致せずして退くに至りしかば、パウロ唯一言を述べけるは、眞なる哉聖霊が預言者イザヤを以て我等が先祖に語り給ひたる事、 26 曰く「汝此民に至りて之を告げよ、汝等耳にて聞かんも悟らず、目にて見んも認めざるべし、 27 蓋此民の心鈍くなり、耳を覆ひ目を閉ぢたり、是は目にて見、耳にて聞き、心にて悟り、而して立歸りて我に醫されん事を懼るればなり」と。 28 然れば汝等心得よ、神の此救は異邦人に遣られて、彼等は之を聴くべきなり、と。 29 パウロ斯く云ひしかば、ユデア人等退きて大いに相争へり。 30 パウロ其宿に留る事満二箇年なりしが、己が許に入來る人を悉く歓迎して、 31 憚らず妨げらるる事なく神の國の事を宣べ、主イエズス、キリストの事を教へ居たりき。

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